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2015.12.9

粉飾決算に繋がる会計不正を防止する手法(3)購買業務

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東芝の粉飾決算の問題で、証券取引等監視委員会は、12月7日有価証券報告書に虚偽記載があったとして、金融商品取引法に基づき、東芝に73億7350万円の課徴金納付を命じるよう金融庁に勧告した。
課徴金の額は、過去最高となった。

粉飾決算の問題が明るみになる度に、制度の改正、監査体制の強化が図られてきたが、残念ながら粉飾は無くならない。

そして、粉飾は一時的に問題を先送りできたとしても、必ずいつかは発覚する。そして会社のダメージはより大きなものとなってしまう。
だから、どれほど業績が悪くとも不正が発生しない環境や仕組みを作らなければならないのである。

3回目の今回は、購買業務に関する不正について説明する。

1. 仕入に関する不正
 1-1 過大支払い / 1-2 リベートの着服 / 1-3 決算期の違いを利用した不正
2. 棚卸資産に関する不正
 2-1 在庫の横領 / 2-2 在庫の架空計上
3. 購買業務に関する内部統制
4. まとめ

1. 仕入に関する不正

購買業務は、発注量・発注価格の決定、発注、納品、検品、仕入計上、支払いといった一連のプロセスから構成される。この過程での不正についてみていこう。

1-1 過大支払い

A社の仕入担当者B氏は、仕入先C社と共謀していた。仕入先C社に実際の購入金額よりも過大な金額の請求書を送らせ、A社はその請求書に基づいて振込を行っていた。
そして過大金額部分を仕入先C社より返金させ、B氏はそれを着服した。

本来であれば、請求書の内容と納品書の内容とを照合してから、支払を行わなければならないが、仕入担当者B氏は、支払業務も兼務していたため、仕入先C社からの請求書に基づいてそのまま支払いをしていた。

仕入担当者B氏と仕入先C社との共謀はあったが、そもそもA社の中で、仕入担当者と支払担当者が同一人物であるという点がこのような不正を可能にしてしまったといえる。

また、納品書と請求書を照合しそれを第三者がチェックするといった内部統制も必要である。

1-2 リベートの着服

取引契約によっては、購入数量が一定規模を超過するとリベートが支払われることになっているケースがある。

D社の仕入担当者E氏は、仕入先F社からのリベートの支払代金の一部を、自分が管理する銀行口座に振り込ませ着服していた。

リベートの金額は、購入量によって変動する。そのため、D社は、リベートの入金額がいくらなのかを把握せず、振込のあった金額をただ受け入れているだけであった。

リベートに関する約束は、計算方法、支払条件、支払方法等を予め契約書に明記しておく必要がある。そして、D社は、毎月、仕入先F社より支払通知書等を入手して、リベートの算定方法が妥当であるか、入金額と支払通知の金額が一致しているか等を検証する必要がある。

その上で、第三者による検証過程のチェックを行えば、このようなリベートの着服は防げたはずである。

1-3 決算期の違いを利用した不正

G社は5月決算の会社である。G社は、仕入先H社(3月決算)の不正に加担している。

G社は、仕入先H社の要請により、3月に大量の商品を仕入れ、実際に3月中に納品を受けた。4月には請求書が届き、G社は実際に商品代金を仕入先H社に支払った。
5月になると、G社は3月に仕入れた商品を全て仕入先H社に返品し、翌月にはG社は仕入先H社より商品代金の返金を受けた。また、G社は、当該取引の謝礼として、仕入先H社よりリベートを受け取った。

このようにして、仕入先H社は、3月に大きな売上を計上し、決算日が経過してからその売上を取り消している。この方法により、仕入先H社は、架空の売上を計上し粉飾を行っていた。

また、G社は、仕入先H社の粉飾に加担することによって、不正なリベートを受け取った。

G社自体には会計上の不正はないように見えるが、他社の不正に加担することは重大な犯罪であると言わざるを得ない。また、返品・返金前に仕入先H社が破綻するようなことになれば、G社としては不要な商品を大量購入してしまったことになり、当然経営上の責任が問われる。

このような経済合理性のない取引が簡単に行えてしまうG社の環境自体に問題がある。
少なくとも、大量の仕入やその支払について、担当者がかってに行えない仕組みを構築する必要がある。また、第三者による発注、検収、支払のチェックも欠かせない。

2. 棚卸資産に関する不正

2-1 在庫の横領

I社の在庫担当者J氏は、倉庫のキャパシティを超えていることから在庫の一部を外部倉庫に保管していた。ところが、在庫担当者J氏は、外部倉庫に保管していた在庫を横流しして売却代金を着服していた。

決算に伴う会社の棚卸に際しては、外部倉庫からの預り証明書を偽造して対応していた。

このような不正は、担当者が交代することにより容易に発覚する。また、外部倉庫であっても棚卸に際しては、実際に外部倉庫を訪問して現物を確かめる必要がある。預り証明書に頼るだけではなく外部倉庫についても棚卸を実施するのだ。

また、外部倉庫は、担当者任せにするのではなく、定期的に第三者が訪問するような体制も求められる。

2-2 在庫の架空計上

在庫の金額を実際よりも増加させれば、利益は増えることになる。
売上原価は、期首棚卸金額に仕入金額を加算し期末棚卸金額を控除して算定される。期末棚卸金額が大きければ大きいほど売上原価は減少し、売上高から売上原価を控除した利益の金額は大きくなる。

利益を捻出するための方法として在庫の水増しはよく行われる不正手段である。
この在庫の架空計上は、特に倉庫を多数保有している会社であるほど発見されにくい。

せっかく棚卸を行っても在庫の集計表が偽造されることがある。
実際の棚卸の結果が帳簿に反映されるまでの照合手続及び当該手続の第三者によるチェック体制の構築が必要である。

また、外部倉庫を使った在庫の水増しや、船など輸送に長期間を要する場合の未着品在庫の水増しなども危険である。
実際に現物を確かめる機会がないことを利用した在庫の架空計上には特に留意が必要である。

3. 購買業務に関する内部統制

購買について「購買管理規程」といったルールを整備する必要がある。その中で購買に関する内部統制を明確にしてチェック体制を整えていくことになる。

まず、発注の決定についてのルール作りが必要である。
発注の権限者、発注量・発注価格の決定方法等を決める。
発注担当者と支払担当者を分離することで不正を防止することも欠かせない。

また、複数の仕入先からの見積書の入手、購入商品の品質に関するチェック方法、仕入先に関する事項の承認手続なども重要である。

仕入先ごとの買掛金の残高管理も必要である。
日付、相手先、商品名、量、単価などを正確に把握して、いつどこから仕入れたどんな商品に関する支払が残っているのかを明確にしておかなければならない。

また、支払に際しては、請求書の内容と納品書の内容を照合しそれを第三者がチェックすることにより、実際に購入したどの商品に対していくら支払っているのかを明確にしなければならない。

4. まとめ

購買業務に関してよく行われる不正とそれを防止するための内部統制について説明した。

よく行われる不正は極めて単純な方法である。
しかし、基本的な内部統制が構築できていなかったことにより、不正の発見が遅れ事態を悪化させてしまう。

有名企業であっても、例外ではない。そして経営者自ら不正に手を染めると、内部統制によって発見することは極めて困難となる。

しかし、経営者自身による不正は、より大きな粉飾に繋がるケースが多い。
経営者不正を防止するための対応を、もっと検討していかなければならないのだろう。


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