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2015.12.5

利益計画の策定に不可欠な赤字を生まない損益分岐点分析

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どのくらい売れたら利益が出るのだろう?
採算が取れるにはどのくらい売らなければならないのだろう?
経営者であれば、当然、このようなことを考えて会社を運営している。

いつまでも利益の上がらない事業や商品の販売を続けていては、単に赤字を増やすだけである。

事業を行う際には事業計画、特に利益計画が必要になる。そして、利益計画を策定する際に重要となるのが損益分岐点分析である。

なぜ、重要なのかは、是非、本文を参照して欲しい。

1. 利益計画を策定するには
2. 損益分岐点とは
3. 費用分解
4. 利益計画への応用
  4-1 必要な利益を確保するための目標売上高 / 4-2 目標売上高を確保した場合の利益
  4-3 必要な設備投資を行う場合の目標売上高
5. 損益分岐点を下げる方法
  5-1 固定費を減らす / 5-2 変動費率を下げる
6. まとめ

1. 利益計画を策定するには

会社が行う会計には、大別して財務会計と管理会計がある。
財務会計は外部報告目的の会計ともいわれ、会社の財政状態や経営成績などを会社外部の利害関係者に示すことを目的したものである。
一方管理会計は、様々な角度から会社の実体を分析し管理するための会計であり、内部報告目的の会計ともいわれる。

会社が利益計画を策定する際には、まず会社の実体を分析しなければならない。
会社の現在の経営資源がどの程度であるか、すなわち設備の状況、人員の状況、製品・商品の状況、資金の状況などを検討する。
また、経済情勢、国際情勢、マーケットの状況など外部環境についても吟味する。

そのような分析の結果、現実的にどれだけの利益を確保するか、その目標を設定することになる。そして、目標利益を達成するためには、どれだけの売上を確保しなければならないのかという売上計画に落とし込んでいく。

その際に、必要となるのが損益分岐点分析である。

2. 損益分岐点とは

損益分岐点とは、総費用と一致する売上高のことである。
つまり利益も損失も生じていない状況である。

費用は変動費と固定費とに分類することができる。
変動費は、売上高に比例して発生する費用であり、固定費は売上高に関係なく発生する費用である。この変動費と固定費の合計である総費用と一致するような売上高が損益分岐点売上高ということである。

これを式にすると以下のようになる。

売上高=総費用…(ア)
売上高=変動費+固定費…(イ)
売上高−(変動費+固定費)=0…(ウ)
売上高−変動費=固定費…(エ)
売上高×(1−変動費÷売上高)=固定費…(オ)
売上高=固定費÷(1−変動費÷売上高)…(カ)

それぞれの式の意味するところは次のとおりである。
(ア)総費用に一致する売上高が損益分岐点売上高である
(イ)変動費と固定費の合計である総費用に一致する売上高が損益分岐点売上高である
(ウ)売上高から総費用(変動費と固定費の合計)を差し引いた利益はゼロである
(エ)売上高から変動費を差し引いた利益(「貢献利益」という)が固定費に一致する
(オ)売上高に貢献利益率を乗じた金額が固定費になる
(カ)固定費を貢献利益率で除した値と一致する売上高が損益分岐点売上高である。
  ※(1−変動費÷売上高)=貢献利益率
    【参考】変動費÷売上高=変動費率

したがって、損益分岐点売上高を上回る売上高を確保しなければ利益は出ない。裏を返すと損益分岐点を下回る売上高しか計上できなければ赤字になるということである。

だから、会社は、損益分岐点を上回る売上高を確保して目標とする利益を上げるための利益計画を策定するのである。

3. 費用分解

損益分岐点分析をする上では、費用を変動費と固定費とに分解することが欠かせない。

変動費は売上高に比例して発生する費用である。
例えば商品の仕入代金である。商品が1個販売されれば必ずそのための仕入代金が発生する。一方で商品を販売しないのであれば仕入代金も発生しない。

一方、固定費は売上高に関係なく発生する費用である。
例えば給料などの人件費である。仮に商品が売れなくても、人を雇っている以上その人に給料を支払わなければならない。
事務所の賃借料などの費用も固定費である。売上があろうがなかろうが毎月決められた金額を支払うことになる。

このように費用はその性質により変動費ないし固定費に区分されるが、変動的な部分と固定的な部分とが混在している費用もある。

各会社の実体によっても変動費と固定費の区分は異なってくるが、一般に発生する費用を例にして区分すると以下のようになる。

【変動費】
■商品仕入代金
■原材料費
■外注加工費
■荷造運賃
■販売手数料

【固定費】
■給料
■賃借料
■保険料
■減価償却費
■研究開発費

【変動費と固定費が混在する費用】
■電気代(基本料金部分は固定費)
■水道代(基本料金部分は固定費)

4. 利益計画への応用

それでは、具体的に損益分岐点分析をどのように利益計画に活用していくかを検討する。
ここでは、以下の3つのケースを想定した。

【前提条件】
前年度の状況は以下の通りであった。
・売上高:4,500万円
・変動費:1,350万円
・固定費:3,000万円
・利益:150万円
・貢献利益率:1−1,350万円÷4,500万円=0.7
・変動費率:1,350万円÷4,500万円=0.3

4-1 必要な利益を確保するための目標売上高

【想定1】
・500万円の利益を確保する

以下の式が成立する。
売上高−変動費−固定費=利益
売上高×(1−変動費÷売上高)−固定費=利益
売上高×貢献利益率=固定費+利益
売上高=(固定費+利益)÷貢献利益率
売上高=(3,000万円+500万円)÷0.7
売上高=5,000万円

したがって、500万円の利益を確保するためには売上高は5,000万円必要である。
そして、5,000万円の売上高を獲得するための販売戦力を策定していくことになる。

また、売上高が5,000万円となった場合の利益を算定してみる。

利益=売上高−変動費−固定費
利益=売上高×(1−変動費÷売上高)−固定費
利益=5,000万円×0.7−3,000万円
利益=500万円

確かに500万円の利益となる。

4-2 目標売上高を確保した場合の利益

【想定2】
・6,000万円の売上高を確保する

この場合は、4-1の後半部分と同様に計算すればよい。

利益=売上高−変動費−固定費
利益=売上高×(1−変動費÷売上高)−固定費
利益=6,000万円×0.7−3,000万円
利益=1,200万円

したがって、6,000万円の売上高を確保できる見通しが立てば、利益は1,200万円になることがわかる。

4-3 必要な設備投資を行う場合の目標売上高

【想定3】
・新たに設備投資をすることにより固定費が200万円増加する
・設備投資により生産が効率化するため変動費率が0.25に低下する
・400万円の利益を確保する

以下の式が成立する。
売上高−変動費−固定費=利益
売上高×(1−変動費÷売上高)−固定費=利益
売上高×(1−0.25)−(3,000万円+200万円)=400万円
売上高×0.75=3,000万円+200万円+400万円
売上高=3,600万円÷0.75
売上高=4,800万円

したがって、設備投資を行い400万円の利益を確保するために売上高は4,800万円必要となる。

検算をする。
利益=売上高−変動費−固定費
利益=売上高×(1−変動費÷売上高)−固定費
利益=4,800万円×0.75−(3,000万円+200万円)
利益=400万円

確かに400万円の利益となる。

5. 損益分岐点を下げる方法

損益分岐点は固定されているわけではない。業務改善を行うことにより、損益分岐点売上高を下げることができる。損益分岐点売上高が低ければ、それだけ利益を確保する上で有利であるといえる。

損益分岐点を下げるには、固定費を減らす方法と変動費率を下げる方法がある。

5-1 固定費を減らす

余剰となっている人員を減らすることで給与を減額する、賃料の安い事務所に引越しをする等して固定費を減らすことにより、損益分岐点売上高を下げることができる。

【前提条件】
・貢献利益率:0.7
・固定費:当初3,500万円⇒減額後2,800万円

(当初)
売上高−変動費−固定費=0
売上高×(1−変動費÷売上高)−固定費=0
売上高×貢献利益率=固定費
売上高=固定費÷貢献利益率
売上高=3,500万円÷0.7
売上高=5,000万円

(固定費減額後)
売上高=固定費÷貢献利益率
売上高=2,800万円÷0.7
売上高=4,000万円

確かに、損益分岐点売上高は、5,000万円から4,000万円に下がっている。

5-2 変動費率を下げる

生産効率のアップ等により変動費率を下げると、損益分岐点売上高を下げることができる。

【前提条件】
・固定費:3,500万円
・変動費率:当初0.3⇒引下後0.2

(当初)
売上高−変動費−固定費=0
売上高×(1−変動費÷売上高)−固定費=0
売上高×(1−変動費率)=固定費
売上高=固定費÷(1−変動費率)
売上高=3,500万円÷(1−0.3)
売上高=5,000万円

(変動費率引下後)
売上高=固定費÷(1−変動費率)
売上高=3,500万円÷(1−0.2)
売上高=4,375 万円

確かに、損益分岐点売上高は5,000万円から4,375万円に下がっている。

6. まとめ

損益分岐点は採算ラインである。

そして損益分岐点分析を通じて、目標利益の設定、必要となる効率化、経費の削減や設備投資の規模などの計画を決定していくことになる。

以下の式は、大変基本的なことではあるが極めて重要である。

■売上高−変動費−固定費=利益
■売上高=(固定費+利益)÷貢献利益率

事業を行う上で必須の知識である。
確実にマスターして欲しい。


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