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2015.11.30

粉飾決算に繋がる会計不正を防止する手法(1)総論

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「まさか!あの有名企業が!!」
粉飾決算が明るみになり世間を騒がせる事件がしばしば発生する。
粉飾決算は、一義的には会社の責任であり経営者の責任であるが、それを見抜けなかった監査人である公認会計士の責任が問われることもある。
 
うちの会社には無関係だと思っているかもしれないが、粉飾決算は何も有名企業に限ったことではない。会計不正はどこの会社でも起こり得ることである。

大きな不正が発生すれば会社としては致命的であり、信用を失墜して存続の危機を迎えることにも繋がりかねない。また、明るみにならない場合であっても、資産の流用といった横領事件が発生すれば会社に損失を与えることになる。

不正を防ぐために、会社は内部統制を整備するが必ずしも万全ではない。特に経営者自らが行う不正について内部統制は極めて脆弱である。

そこで、会計不正を未然に防ぎ、粉飾決算による会社危機を避けるためにはどうすればいいかこれから説明していく。まずは総論である。

危険はいつも身近に存在する。極めて重要なことなのでしっかりと理解して欲しい。

1. 不正の分類
2. 不正と誤謬
3. 不正な財務報告と資産の流用
4. 不正リスク要因
 4-1 動機・プレッシャー / 4-2 機会 / 4-3 姿勢・正当化
5. 不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況
 5-1 会計記録の矛盾 / 5-2 証拠の矛盾 / 5-3 通例でない取引 / 5-4 その他
6. まとめ

1. 不正の分類

不正を防止し発見する責任は取締役や監査役といった会社の役員にある 。しかし、実際の不正は経営者自らが実行するケースも多く、場合によっては監査役まで不正に関与していることもある。

したがって、取締役・監査役のみに不正防止の責任を課したとしても、決して不正リスクは低減しない。 むしろ会社を取り巻くステークホルダーと一体となって、不正の予防と発見に取り組む必要がある。

実際、不正を発見した場合に従業員には通報する責任が課せらることもある。。
会社の株主や監査人、債権者や顧客といったステークホルダーが一体となって会社の秩序や成長を阻害する不正の防止・発見に取り組んでいくことが期待される。

なお、不正を分類すると、資産の流用、不正な報告、汚職に分けられる。
下図を参照して欲しい。

【不正の分類】※赤字は財務諸表監査における不正の領域

以下では、財務諸表監査における不正について説明する。

2. 不正と誤謬

財務諸表の虚偽の表示(粉飾決算)は、不正または誤謬を原因として生じる。

両者の違いは、財務諸表の虚偽の表示の原因となる行為が、意図的であるか意図的でないかによる。

誤謬は、財務諸表の意図的でない虚偽の表示である。いわゆるミスである。
一方、不正は、財務諸表の意図的な虚偽の表示である。何らかの利益を得る目的で虚偽の表示をする意図をもって行うことである。

3. 不正な財務報告と資産の流用

不正な財務報告とは、財務諸表の利用者を欺く目的で、意図的に財務諸表の虚偽表示を行うこ とである。
例えば、計上すべき金額を計上しないこと(借入金の過少計上)、計上してはいけない金額を計上すること(架空売掛金の計上)などがある。

不正な財務報告は経営者が利益調整を図るために行われる可能性がある。こういった行為は、動機やプレ ッシャーによって生じる。
例えば、業績に連動した自らの報酬を増やしたいという欲望のために、また、株主の期待に応えるというプレッシャーのために行うことがある。また、税金を逃れるため、金融機関からの資金調達を容易にするといった動機の場合もある。

不正な財務報告の具体的な手法としては 、会計記録や証拠の改竄、重要な会計記録の意図的な除外、会計基準の不適切な適用などが考えられる。

不正な財務報告は、しばしば経営者自らによる内部統制の無効化を伴う。
例えば以下のような不正が行われる。
■架空の仕訳を入力する
■会計上の見積りに使用される仮定や判断を不適切な方向に変更する
■会計事象を認識しない
■会計事象を早期に認識する
■重要な事実を隠蔽する
■隠蔽目的でわざと複雑な取引を行う

一方、資産の流用は、従業員により行われ、比較的少額であることが多い。
資産の流用は、例えば以下のような方法で行われる。
■受取金の着服
■物的資産の窃盗又は知的財産の窃用
■会社が提供を受けていない財・サービスに対する支払金額の着服
■会社資産の私的利用

会計不正の手段も、帳簿や証憑の改竄といった伝統的なものから,会計システムや業務システムの不適切な操作、見積もりや予測などの不合理な変更といった見えにくいものが増えてきている。
また、そもそも会計自体も見えにくいものを記録するようになってきている(例えばソフトウェアや繰延税金資産など)。

その意味では、不正自体が高度化してきており、不正を防止・発見するための手法そのものの高度化も求められている。

4. 不正リスク要因

不正は、通常発見が困難であるが、不正を実行する動機やプレッシャーの存在、不正を実行する機会を与える事象や状況の存在を識別することがある。

不正リスク要因を重要度により序列付けすることは容易ではないが、以下では、不正リスク要因を不正な財務報告に関する不正リスク要因と資産の流用に関する不正リスク要因とに分け、不正を実行する「動機・プレッシャー」 、不正を実行する「機会」、不正行為に対する「姿勢・正当化」 に分類して、具体的な要因をみていく。

4-1 動機・プレッシャー

【不正な財務報告】
■業界内の過度な競争
■市場の飽和状態
■技術革新、製品陳腐化等の環境変化に十分に対応できない
■需要の減少
■会社の属する産業における経営破綻の増加
■重要な営業損失の発生
■外部者が企業の収益力や継続的な成長について過度の期待をもっている
■競争力を維持するために追加借入を必要としている
■上場基準、債務の返済条件、借入に係る財務制限条項に抵触し得る状況にある
■経営者、監査役等が会社と重要な経済的利害関係を有している
■経営者等の報酬の大部分が、株価、業績目標の達成に左右される

【資産の流用】
■従業員の解雇の公表
■従業員給与等の変更
■従業員の期待に反する昇進や報酬等
■個人的な債務の存在

4-2 機会

【不正な財務報告】
■通常の取引過程から外れた重要な関連当事者との取引の存在
■取引先に財務上の強大な影響力を有している
■不確実性を伴う重要な会計上の見積りがある
■重要かつ通例でない取引、又は極めて複雑な取引等が存在する
■事業環境や文化の異なる国又は地域で重要な事業が実施されている
■合理性がない仲介手段を利用している
■租税回避地域において合理性があるとは考えられない巨額の銀行口座が存在する
■業界慣行として、契約書に押印がなされない段階で取引を開始する
■財務報告プロセスと内部統制に対する取締役会及び監査役等による監視が有効ではない
■極めて複雑な組織構造である
■役員の頻繁な交代がある
■内部統制に対して十分な監視活動が行われて いない
■従業員の転出入が激しい

【資産の流用】
■小型、高価で需要が多い棚卸資産
■貴金属のような容易に換金可能な資産
■小型で市場性が高い固定資産。
■職務の分離又は牽制が不十分
■旅費等の支出とその精算に対する監視が不十分
■資産を管理する従業員に対する監視活動が不十分
■流用されやすい資産を取り扱う従業員の採用手続が不適切
■資産に関する帳簿記録が不十分
■取引に関する権限と承認手続が不適切
■現金、有価証券、棚卸資産又は固定資産に関する資産保全手続が不適切
■資産について網羅的かつ適時な調整が行われない
■取引について適時かつ適切な記帳が行われない
■内部統制において重要な役割を担っている従業員に強制休暇を取得させていない
■ITに関する経営者の理解が不十分
■自動化された記録に対するアクセス・コントロールが不十分

4-3 姿勢・正当化

【不正な財務報告】
■経営者が、経営理念や企業倫理の伝達・実践を効果的に行っていない、
■財務・経理担当以外の経営者が会計方針の選択又は重要な見積りの決定に過度に介入する
■過去に法令等の違反があった
■経営者が株価や利益を維持・増大させることに過剰な関心を示す
■経営者が投資家等の第三者に非現実的な業績の達成を確約する
■経営者が内部統制における重要な不備を適時に是正しない
■経営者が不当に税金を最小限とすることに関心がある
■経営者のモラルが低い
■オーナー経営者が個人の取引と会社の取引を混同している
■非公開会社において株主間紛争が存在する
■経営者が重要性のないことを根拠に不適切な会計処理を頻繁に正当化する

【資産の流用】
■資産の流用に関するリスクを考慮した監視活動を行っていない
■資産の流用に関する内部統制を無効化している(是正しない)
■従業員の処遇や企業に対する不満が存在する
■行動や生活様式に資産の流用を示す変化が見られる
■少額な窃盗を容認している

5. 不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況

以下では、不正による重要な虚偽表示の兆候を示す具体的な状況について例示する。

5-1 会計記録の矛盾

■網羅的若しくは適時に記録されていない取引が存在する
■裏付けのない又は未承認の取引や勘定残高が存在する
■期末日近くに経営成績に重要な影響を与える通例でない修正が行われている
■従業員が、業務の遂行上必要のないシステム又は記録にアクセスした証拠が存在する
■不正の可能性について従業員や取引先等からの通報がある

5-2 証拠の矛盾

■証拠となる文書を紛失している
■偽造されたおそれのある文書が存在する
■合理的な理由なく、重要な文書を入手していない
■勘定残高の通例でない変動や趨勢の変化、重要な財務比率や相関関係の変動がみられる
■経営者や従業員の話に矛盾が生じている、
■重要な記録等に矛盾する点が存在する
■売上債権勘定に多額の貸方記入や修正がある
■売上債権勘定の補助簿と顧客向け報告書との差異に合理性がない
■重要な取引に関連する証憑、会計帳簿や記録において、本来一致すべき数値が不一致
■多数の棚卸資産又は有形資産を紛失している
■消失した電子的証憑がある
■重要なシステム開発やプログラム変更テスト等に関する証拠がない

5-3 通例でない取引

■会社の通常の取引過程から外れた重要な取引のうち、会社が関与する事業上の合理性が不明瞭な取引が存在する
■会社の事業上合理性が不明瞭な重要な資産の取得、出資、費用の計上等が行われている
■関連当事者又は企業との間に、事業上の合理性が不明瞭な契約がある

5-4 その他

■会社が属する産業における一般的な会計方針とは異なる会計方針を採用しようとする
■経営環境の変化がないにもかかわらず、会計上の見積りを頻繁に変更する
■合理的な理由がなく重要な会計方針を変更しようとする
■従業員による企業の行動規範に対する違反について寛容である

6. まとめ

不正に関する概略について説明した。

■不正の種類
■不正と誤謬との違い
■不正な財務報告と資産の流用について
■不正リスク要因について
■不正による重要な虚偽表示の兆候を示す具体的な状況

これらについて理解できたと思う。
次回以降は、個々の具体的な不正手段についてみていく。

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