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2015.12.3

粉飾決算に繋がる会計不正を防止する手法(2)販売業務

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販売業務は、通常、受注、出荷(サービの提供)、売上計上、請求、代金回収のプロセスから構成される。

この販売プロセスにおいては、在庫の横流しや回収した代金の着服などに伴い、架空売上の計上や逆に売上の過少計上といった会計操作が行われる可能性がある。

販売取引が成立するためには得意先との接触が不可欠であり、そのため得意先と結託するなどして、会社の目の届かないところで不正が発生するといった特徴もある。

販売業務に係る不正は会社に大きな経済的損失を与えるケースが多く、しばしば重大な粉飾決算に繋がる。そのため、不正を防止・発見するための手続について、十分に理解しておく必要がある。

1. 受注に関する不正
2. 出荷に関する不正
3. 売上計上に関する不正
4. 請求に関する不正
5. 代金回収に関する不正
6. 販売業務に関する内部統制
7. まとめ

1. 受注に関する不正

一般的に、有名な上場企業であれば世間的に信用がある。また、よく知っている人から紹介された会社であれば、ある程度信用できる。だが、初めて名前を聞くようなよくわからない会社と取引を始める場合には、特に注意をしなければならない。

不正事例についてみていこう。
新規取引先のA社より注文があった。少額の取引なので、月末締め翌月払いの条件で注文に応じた。そして最初の数回の取引は何事もなく済んだ。
そのうち大口の注文が入り担当者は大喜びした。これまでも期限通りに入金があったので、今回も掛売とした。

ところが納品が完了してしばらくするとA社と連絡がとれなくなってしまった。
A社との取引を任されていた営業担当者B氏も突然と姿を消した。

後で発覚したことだが、A社はペーパーカンパニーであり、営業担当者B氏ともグルであった。
大量発注の商品を持ち逃げして、密かに販売し現金化していた。

この不正は、取引開始時に相手先の信用調査を行わなかったことにより生じてしまった。会社としての実体があるか、社会的に問題のない会社であるかといったことを調べておく必要があったといえる。

また、仮に会社の実体があったとしても、財政状態が極めて悪くいつ倒産するかわからない会社かもしれない。

もう1つ事例を紹介しよう。
営業担当者C氏は、自分の営業成績を上げるために、厳しい財政状態の会社(D社)と知りつつ取引を継続していた。その後D社は倒産し、売上代金を回収することができなくなった。

この場合、D社に対する信用調査を行って、財政状態を把握しておく必要があったといえる。また、D社の支払能力に応じた与信限度額も設けておくべきだった。無条件に掛売を行ったため、被害が大きくなることを食い止めることができなかった。

なお、上場企業であっても経営破綻もするし問題を起こすこともあるので、上場会社であることを持って信用調査をしない、与信限度額を設けないといった対応は避けなければならない。

2. 出荷に関する不正

得意先から注文があると、通常、出荷指示書に基づいて出荷担当者が出荷の手配をする。
また、在庫については定期的に棚卸を行い、帳簿数量と実数が一致していることを確かめる。

だが、膨大な商品を扱っている会社の場合、毎回毎回、全ての商品を棚卸せずに、ローテーションを組んで行う場合がある。これを循環棚卸という。

不正事例を紹介しよう。
E社の出荷担当者F氏は、循環棚卸のスケジュールを利用して、当面棚卸が行われない商品を勝手に外部に売却して代金を着服していた。

循環棚卸によるローテーションの時期がやって来て横流しされた商品の棚卸を行ったところ、帳簿数量と実数に大きな乖離が生じていた。しかし、すでに担当者も交代し、差異理由を突き止めることはできなかった。

出荷担当者F氏は架空の出荷指示書を作成し商品を搬出していた。本来であれば、注文書に基づいて出荷指示書が作成され同時に出荷の事実が帳簿に反映される。しかし注文の事実がないため帳簿上の出荷処理は行われていない。

したがって、もしE社が注文書と出荷指示書を照合するという手続を必ず行っていれば、この不正は早期に発見できたし、そもそも不正自体を防止することができただろう。

もう1つ不正事例を紹介しよう。
返品に関する不正である。
G社は返品商品の管理が極めて甘かった。厳格な数量管理は行われていなかった。
そのため、そこに付け込んだ恒常的な商品の横流しが行われていた。

本来であれば、返品商品の検品を行い、返品理由を把握し、返品受入の承認手続を行って、返品数量・金額の管理を行わなければならない。
返品商品は棚卸の対象からも外されていた。

3. 売上計上に関する不正

営業部門が注文書に基づいて出荷指示書を作成する。出荷担当者は出荷指示書にしたがって出荷の手配をする。一方で、注文書及び出荷指示書にしたがって売上伝票が起票され、経理部で会計帳簿に記帳する。

ところが、H社では、出荷担当者I氏が売上伝票の起票から会計帳簿への記帳まで行っていた。
また、出荷担当者は営業担当者との共謀を図った。

不正事例をみていこう。
出荷担当者I 氏は出荷の事実を会計帳簿に記帳しなかった。そして、回収した売掛金を営業担当者J氏と山分けしていた。

棚卸を行えば、商品の実数は帳簿数量を下回っていることになる。しかし、注文書も消却され商品も勝手に持ち出され、取引の記録がまったく残っていない。
そのため、H社ではこの不正を発見することができなかった。

このケースは職務の分掌が適切に行われていれば防ぐことができた。
出荷担当者I氏が会計帳簿の記帳を行うのではなく、経理部門において注文書・出荷指示書を検証して記帳する体制を構築しておくべきであった。
また、営業部門で入手した注文書は全て経理部に回付されるような仕組みも必要であった。
さらに、代金の回収は必ず銀行口座を通すことも有効であった。

もう1つ不正事例を紹介する。
営業の交渉上、大口得意先にはリベートを支払うことがある。
だが、得意先と共謀し、本来の金額よりも多額のリベートを支払いその一部をバックしてもらい着服するという不正である。得意先の担当者の懐にも入るため共謀が成立する。

営業の交渉が担当者間だけで行われ、チェックが効かなくなるとこのような不正が生じてしまう。リベートの金額算定根拠を明確にし、営業部門、経理部門等複数の部門でチェックすることが有効である。
また、特定の営業担当者に任せるのではなく、複数の人が関与することにより不正を牽制することができる。

4. 請求に関する不正

水増し請求による回収代金の一部着服の事例について紹介する。

営業担当者K氏は、請求書を持参し売上代金を現金で回収していた。
また、受注段階では売上金額が確定せず、その後の交渉により金額が決定するという取引の流れがあった。

そこに目を付けた営業担当者K氏は、得意先と合意した売上代金よりも低い金額を決定金額として会社に報告し差額を着服していた。また、得意先には自ら作成した請求書を渡していた。

まず、ここで問題となるのは、最終的に決定した売上金額について、会社として検証をしていないということである。受注段階で注文の事実は確認できているが、再度注文書を入手するなり、合意した金額の覚書を締結するなりして、決定金額を明確にした書類を作成する必要があった。

また、営業担当者K氏が請求書の発行業務を兼務していたことも問題である。職務分掌による牽制機能を働かせなければならなかった。

さらに、売上代金を現金回収していたことも、この不正を可能にした要因である。

5. 代金回収に関する不正

営業担当者L氏は、売掛金の回収業務を任されていた。ところが営業担当者L氏は、回収代金の着服を行っていた。だが、着服しただけではいずれその不正は明るみになってしまうので、着服の事実を隠ぺいする目的で回収先の付け替えを行った。

つまり、得意先M社からの回収代金を着服すると、得意先N社からの入金を得意先M社に充当する。同様に、得意先O社からの入金を得意先N社に充当する。このようなことを繰り返し、最終的な売掛金の不明残高を貸倒処理して、着服の事実の発見を免れていたのだ。

だが、このようなケースでは、しばしば売掛金の残高と入金額とが整合しない。一部入金だったり、どの売上に係る入金なのかがはっきりしない。
したがって、入金がどの請求に対するものであるかを得意先に問い合わせることにより不正を発見することができるだろう。

その意味では、定期的に得意先と売掛金の残高を照合する手続を行うことは、不正発見・防止に極めて有効である。

また、金額の多寡に関わらず安易に貸倒処理を行えない体制をつくることも重要である。
不明残高について徹底的な調査を行った上で、営業部門、経理部門等の複数の部署の責任者による検証と承認が必要である。

6. 販売業務に関する内部統制

販売プロセスは以下の業務で構成されている。
■受注処理及び承認
■出荷指示
■売上計上
■請求書発行
■入金処理
■返品・値引き処理及び承認
■債権管理及び貸倒処理

不正を防止・発見するためには、あらゆる段階で職務分掌を行い、権限と責任を明確にしなければならない。
例えば、受注を処理する部署、担当者、承認者、必要な書類を決めることになる。同様に、出荷指示の担当部署、作成者、承認者、必要な書類を決めなければならない。

つまり、各業務の段階で、不正が起こらないようなチェック体制を構築していくということである。チェックの仕組み、すなわち内部統制は会社の規模や業務内容によって様々であり、一概にこうでなければならないというものではない。
費用対効果を考慮した上で最も有効な仕組みが構築されるのが理想である。

7. まとめ

販売業務は、受注、出荷、売上計上、請求、代金回収といった一連のプロセスである。
各段階において、どのような不正が起こり得るのか、また、不正を防止・発見するにはどのような内部統制を構築するべきであるかをみてきた。

紹介した不正事例は、典型的なものばかりであるが、これだけに限られるものではない。また最近では、不正の手口も複雑化・巧妙化してきている。
だが、基本的なことを疎かにすることで、極めて単純な方法で行われる不正が多々あることも事実である。

販売業務に係る不正の防止・発見のための手法として、是非、参考にして欲しい。

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